他のメンバーと別れた後、跡部と宍戸は自宅には向かわず、街の中心にある大きなホテル
へと向かった。そのホテルの看板にはローマ字で『Atobe』の文字。どうやら跡部の
家が経営しているホテルの一つらしい。
「今日はここに泊まるぞ。」
「マジかよ!?・・・激高そう・・・・」
「ほら、行くぜ。」
「あっ、ちょっと待てよ!!」
跡部がスタスタと歩いていってしまうので、宍戸は慌てて追いかける。ホテル内に入ると
まるでどこかのお城のような様相で、宍戸はただ呆然とするしかない。
(どんだけ豪華なホテルだよ?一泊とはいえ、こんなとこに泊まるなんてありえねぇ。)
「ようこそいらっしゃいました、景吾坊ちゃま。」
「この前予約しといた部屋、空いてるよな?」
「もちろんでございます。御案内しますので、どうぞこちらへ。」
「行くぞ、宍戸。」
「あ、ああ。」
ボーイに案内され、二人はエレベーターに乗り込む。扉が閉まるとエレベーターはぐんぐ
ん上へと上がっていった。かなり速いスピードであるにも関わらず、エレベーターはなか
なか目的の階に着かない。
「跡部、今日泊まる部屋って何階なんだ?」
「あーん?最上階に決まってんだろ。」
やっぱりと宍戸は溜め息を着く。こんな高級ホテルに泊まったことのない宍戸でも、階が
高くなればなるほど、宿泊料が高くなるのは知っている。それもこんな豪華なホテルの最
上階。そりゃもう想像したくないほどの値段に違いない。
チンッ
エレベーターから降りるとボーイは長い廊下を進んでいった。たくさんのドアを横目に見
ながらどんどん奥の方へと進んでゆく。もうこれ以上部屋がないというところでボーイは
足を止めた。
「こちらのお部屋でございます。」
「ああ。サンキュー。夕飯はあと30分くらいしたら持ってこい。」
「かしこまりました。」
ペコリと頭を下げるとボーイはその場から立ち去る。跡部はポケットからカードを取り出
し、ドアの横にある機械に通す。それと同時に鍵が開くような音がし、ピカっと赤い光が
ついた。
「入るぜ、宍戸。」
「おう・・・」
緊張した面持ちで宍戸はその部屋に入った。一つの部屋に入ったはずなのに、まるでマン
ションの一室であるかのように部屋がいくつかに区切られている。
「これ・・・ホテルの部屋だよな・・・?」
「ああ、そうだぜ。お前、スイートルームって知らねぇか?一つの部屋がいくつかに区切
られてる部屋のことを言うんだけどよ・・・」
「それくらい知ってんよ!!バカにすんな。」
「この部屋はそのスイートルームだ。しかも、かなり上のレベルのスイートだぜ。」
「スイート・・・ルーム・・・」
高級ホテルの最上階のしかも一番端のスイートルーム。どれだけ贅沢な部屋をとっている
んだと宍戸はつっこみたかったが、跡部にとっては当たり前のことなのだろう。とにかく
もっと奥に入ってみようと足を進めると右手の方に一つのドアが見えた。何だろうとちょ
っとした好奇心から宍戸はそのドアをあけた。
「何だここ?洗面台・・・つーことは風呂か?」
脱衣所と浴槽がガラスの板で仕切られたそこはバスルームだった。くもりガラスになって
いて、奥が見えなかったのでもっと先へと進んでみる。そこには3、4人はゆうに入れる
だろうというくらいの大きな浴槽がどーんと置いてある。しかも、見たところその素材は
大理石であるようだ。
「宍戸、何してんだこんなところで。」
「跡部、ここの風呂メチャメチャデカいんだけど・・・」
「ああ、風呂か。このくらいの部屋だったらそれくらい当然だろ。飯食ったら一緒に入ろ
うぜ。」
「ああ。・・・って、普通に頷くなよ俺!!」
「何、一人つっこみやってんだよ?さっさと部屋に入るぞ。」
お風呂の大きさに感動し、宍戸は跡部の言葉もさらっと流してしまった。しかし、それが
意外とすごいことを言っていたということに気づき、思わず自分につっこんでしまう。跡
部はクスクス笑いながら、宍戸より一足早く奥の部屋へと入っていった。
(はあ〜、こんな部屋で落ち着いて眠れるのかねぇ。ま、跡部の部屋に比べたら・・・)
そんなことを考えつつ、宍戸はバスルームを出て、跡部の待つ部屋へと入った。ふと顔を
上げてみてビックリ。目に映ったのは跡部の部屋に負けず劣らず広い部屋とありえないく
らい大きなベッド。真っ白なラブソファの前には巨大スクリーンの大型テレビ。そして、
小さなテーブルのすぐ横にはパノラマ状態で景色が見渡せる大きな窓がある。
「宍戸、ここからの景色キレイだぜ。そろそろ夕飯もくるはずだし、ここに座って待って
ろよ。」
小さなテーブルの横に置いてある小さなソファに腰かけながら、跡部は宍戸に向かって手
招きをする。宍戸は驚きからしばらく呆然としていたが、ハッと我に返って跡部のもとま
で歩いてゆく。
「マジで・・・すげぇ部屋だな。」
「今日はバレンタインデーだからな。少しくらい、いい思いしてもいいだろ?」
「俺にとっちゃ、少しどころかありえなさすぎて、現実なんだか夢なんだか分かんねぇく
らいだぜ。」
「夢と思われちゃ困るな。ちゃんとした記憶としてしっかり頭の中に入れとけよ?」
「分かってんよ。せっかくお前が用意してくれた部屋だしな。ちゃんと叩き込んどくぜ。」
宍戸も跡部の向かい側のソファに腰をおろす。しばらくキラキラ輝く東京の街並を見てい
ると部屋をノックする音が聞えた。
「夕飯、来たみてぇだな。」
すっと立ち上がると跡部はドアの方へと向かう。ボーイが押してきた銀色のカートにはた
くさんの皿が乗っていた。それほど個々の量は多くないが、見たところかなり高そうなも
のばかりだ。
「食べ終わりましたらお呼びください。すぐにうかがいます。」
「ああ。」
ボーイが部屋から出て行くと、跡部は再びソファに座り宍戸を見た。目の前にあるかなり
高価そうなディナーを見て、宍戸は少々困惑気味だ。
「まーた、高そうなのばっかだな。」
「高い食い物は口に合わないって?」
「そ、そんなことねーけどよ・・・・」
「だったら文句言わずに食え。味は最高なはずだぜ?」
ふっと自慢気に笑って、跡部は用意された夕食を口に運ぶ。別に高いものが嫌いというわ
けではなく、自分ばかりたくさんのものを跡部からもらっているような気がして宍戸は微
妙な気分になっているのだ。
(高いものが食えるのは別に嫌じゃねぇっつーか、むしろ嬉しいんだけど、全部跡部持ち
ってのが引っかかるんだよなあ。だからって、俺が払えるわけねぇし・・・・)
「不味いのか?宍戸。」
「えっ?いや、美味いぜ。」
「だったら、もっと美味そうに食え。言っておくけどな、俺はお前とこういうとこに泊ま
って、美味いもん食ったりすることを楽しみとしてやってるんだぜ。別にお前に借りを押
しつけたくてやってるんじゃないからな。そこのところ、分かっとけよ?」
宍戸が気にしていることを跡部は表情から読み取り、適確な言葉をかける。宍戸からすれ
ば心を読まれたようで、何となく腹が立つなあと思ったが、やはりそう言われれば自然と
心は軽くなる。どうしても跡部に何かを返したいと思うのなら、跡部が期待することをち
ゃんとしてあげることだろうと宍戸は頭の中でそう思った。
「跡部・・・」
「どうした?」
「この飯、すっげぇ美味いぜ。これ食べ終わったら、一緒にあのデッカイ風呂入ろうな。」
まだ完全に気にしなくなったわけではないが、今のところ自分が表せる精一杯の気持ちを
口にした。すると、跡部はさっきとは全く違う笑顔で宍戸に笑いかける。
「そうだな。風呂からの眺めも最高なんだぜ。ゆっくり入ろうな。」
「お、おう。」
もっとからかわれるようなことを言われると思ったが、意外に素直な反応を返され、何と
なく宍戸は照れてしまう。自分の態度一つで跡部の態度がここまで変わるのもすごいなあ
と夕飯を夢中で食べるふりをしながら、宍戸はじっと跡部の顔を眺めた。
「はあ〜、腹いっぱい。うまかったあ。」
全てを食べ終えるころには宍戸ももうこの雰囲気にすっかり馴染んでいる。空いた食器を
部屋から持って行かせると、跡部はテレビの横にあるタンスから二組のバスローブとタオ
ルを出した。
「さて、飯も食ったし、少し休んだら風呂入るか。」
「おう。なあ、ここの風呂って何かおもしろい機能とかついてねーの?」
「ジャグジーになってるはずだぜ。」
「そっか。あっ、俺、ちょっとトイレ行ってくるな。」
「ああ。」
宍戸がトイレに言っている間に跡部はお風呂に入る用意をする。バスローブを脱衣所のハ
ンガーにかけ、タオルも使いやすいところに置いておく。湯船の温度も確かめ、ちょうど
よいことを確認するといったんバスルームを出て、宍戸が戻ってくるのを待った。
「待たせたな、跡部。風呂、入ろうぜ。」
「ああ。」
宍戸がトイレから戻ると跡部は立ち上がり、再びバスルームへと向かう。
「久々だなー、お前と風呂入んの。」
「そういや最近一緒には入ってなかったよな。」
「ちょっと楽しみかもー。」
「そうかよ。」
上から順番に服を脱いで行きながら二人はそんな話をする。宍戸も跡部もどこか嬉しそう
だ。下着まで全て脱いでしまい、脱いだ服を備え付けられているカゴに入れると、宍戸が
すぐ横に置いてあった手ぬぐいを手にしながら跡部に尋ねる。
「跡部、タオル巻くか?」
「あーん?別に必要ねぇだろ。」
「だよな。じゃあ、そのまま入っちまおーっと。」
一度は持った手ぬぐいを元に戻すと宍戸は跡部よりも一足早く中に入る。それを追うよう
にして跡部も中へと入っていった。そのままいきなり湯船に入るわけにはいかないので、
二人ともざざっと髪や体を洗ってしまう。ホテルの一室にも関わらず、二つのシャワーが
備え付けられていたため、あっという間にそれを済ますことが出来た。
「さてと、入るか。」
「おう。」
大きな浴槽に体を沈めると心地よい熱が二人の体を温める。しかも、目の前にある窓から
見える夜景はさっきの部屋に劣ることのないほどの絶景だった。
「激キレー。風呂からこんな景色が見えるなんて最高だよな。」
「ああ。それもお前と一緒に見れるんだ。これ以上気分のいいことはないぜ。」
「跡部・・・」
こんなところでそんなセリフ言うなよなあと宍戸は顔を赤らめる。
「顔が赤いぜ。のぼせちまったのか?」
「違ぇーよ。跡部がんなこと言うから・・・・」
「ふっ、ホーント可愛い奴だな。」
「お前、ムカツクー。」
ちょっと怒った様子でふりむこうとした瞬間、宍戸の体を跡部の腕に包まれた。広い浴槽
にも関わらず、二人の体はピッタリと密着する。
「あ、跡部・・・?」
「風呂入ってるときのお前の匂いって、すげぇいい匂いなんだぜ?特にこのへんとかな。」
宍戸の体を抱きしめたまま、跡部は宍戸のうなじに鼻をよせる。その瞬間、首筋に軽く唇
が当たった。
「ふっ・・・ぁ・・・」
「肌の色もほのかに赤くなってよ、今が食べ頃だって教えてるみたいなんだぜ。気づいて
るか?宍戸。」
「ん・・・あ、跡部っ・・・」
耳元で吐息をかけるように囁かれ、宍戸は思わず身体を震わせる。ドクンドクンと心臓の
音が大きくなっていくのが分かった。
「今すぐにでも食べちまいてぇ。」
「っ!?」
ヒクンと宍戸の身体が跳ねた。跡部の手が今一番熱を持っているところに触れたのだ。
「やっ・・・待てよ・・・こんなとこで・・・・」
「ここではこれだけだ。続きはベッドでゆっくりしてやるよ。」
「これだけって・・・あっ・・・やだ・・・そんなとこ触んなぁ・・・・」
いくら嫌がってみたところで、それは跡部にとっては誘っているようにしか見えない。無
駄だとは分かっていても思わず腕の中でもがいてしまう。
「ぅ・・あ・・・跡部っ・・・ん・・・」
「あんまりバタバタ動くと、口とか鼻に水が入るぜ。」
「んなこと言われたって・・・あっ・・・あ・・・」
「ちゃーんとイカせてやるから、少し大人しくしてろ。」
「ひぁっ・・・ちょっ・・・あ・・・」
あまり湯船の中で長時間やっていてものぼせてしまうので、跡部は手の動きを速め、宍戸
の吐精を促した。
「やっ・・・跡部・・・もっ・・あっ・・ああ―――っ!!」
バシャンっ!!
熱は放って力の抜けた宍戸の身体は一瞬お湯の中に沈みかける。そんな宍戸の身体を慌て
て跡部は持ち上げるように支えてやった。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「ハァ・・・ちょいのぼせ気味かも・・・」
「それじゃ、ベッドの方行くか。出れるか?宍戸。」
「なんとか・・・・」
力の入らない宍戸の身体を支えてやりながら、跡部は湯船から上がる。ここでしたという
証拠は水を流してしまえば消えてしまう。お湯を溜めるためにする栓を抜き、跡部は脱衣
所の方へと宍戸を連れていった。
「ほら、これ着るだけでいいから腕通せ。」
「おう・・・」
ぼーっとしながら宍戸は跡部に渡されたバスローブに腕を通す。どうせ、すぐに脱いでし
まうのだからと、跡部はバスローブについている紐をそれほどしっかりとは結ばなかった。
部屋の方へ移動するとキングサイズのベッドに身を横たえる。ダイブをするようにベッド
に倒れ込んだため、宍戸のバスローブはかなり着乱れた。
「跡部・・・あちぃ・・・」
「別に脱いじまっても構わねぇぜ。どうせこれから続きを始めるんだしな。」
「じゃあ、跡部も脱げよー。」
「あーん?何でだよ?」
「俺だって跡部の裸見てぇ。」
「何だよそれ。ま、そんなに見たいんだったらいいぜ。お前だけ脱いでるんじゃ不公平だ
もんな。」
宍戸の言葉に軽くウケながら跡部は着ていたバスローブを脱ぎ捨てる。恥ずかしげもなく
そんなことをする跡部にドキドキしながら、宍戸は熱くなっている身体をゆっくり起こし
た。
「脱がしてもいいぜ。」
「自分で脱がねぇのかよ?」
「面倒くせぇ。」
「世話の焼ける奴だな。」
くっくと喉の奥で笑いながら、跡部は宍戸のバスローブを脱がす。そのまま、ベッドの下
へそれを落とすと宍戸のことを押し倒し、軽い口づけを施した。
「このベッド、すげぇふわふわしてて何か雲の上に乗ってるみてぇ。」
「このベッドは『ヘブンリーベッド』っていうんだぜ。いい名前だよな。」
「ヘブンリー?」
「“天国の”って意味だ。この名前の通り、最高にお前のこと気持ちよくさせて、天国に
いるような感覚を味あわせてやるよ。」
「天国のベッドか。へぇ、いいんじゃねぇ?」
なかなかおもしろいネーミングだよなあと宍戸は笑う。そんな宍戸に跡部はちゅっとキス
を落としていった。
「ふふ、くすぐってぇよ。」
「すぐに気持ちよくなる。余裕かましてられるのも今のうちだぜ?」
ニヤリと笑って、跡部は赤く染まっている胸の突起に口づけた。その瞬間、宍戸の口から
は女の子のような高い声が漏れる。
「ひゃ・・・あっ・・・」
「それはくすぐったい時に上げる声じゃねぇよなあ?」
「るせっ、いきなりそこに移るのは反則だろ。」
「反則?この行為に反則なんてないね。」
ぐいっと宍戸の脚を開かせながら、跡部は言う。いきなりこうくるとは思わなかったので、
宍戸は抵抗するのも忘れてしまった。
「わっ!!おい・・・」
かなり恥ずかしい格好をさせられ慌てる宍戸を尻目に、跡部は細くしなやかな指を自分の
唾液でたっぷり濡らした。そして、まだしっかり閉じたままでいる宍戸の蕾にそれを持っ
てゆく。
「まっ・・・いきなりそっちかよっ・・・・」
「俺は早くお前と繋がりてぇんだ。慣らさないで入れてもいいのかよ?」
「いいわけねぇだろ!!」
「それじゃあ、文句はねぇじゃねぇか。」
「でも・・・まだ・・・そこは早っ・・・くっ・・あぁっ!!」
思った以上に性急に進めようとしている跡部に宍戸は戸惑う。しかし、跡部の動きを止め
ることは出来ない。濡れた指が内側に入り、宍戸はビクンと身体を震わせた。
「安心しろ。今日は優しくしてやるつもりだからな。せっかくのバレンタインなのにキツ
イのは嫌だろ?」
「う・・ぁ・・・でも・・・お前急ぎすぎっ・・・!!」
「仕方ねぇだろ。これでも結構堪えてる方なんだぜ?」
適確に感じるポイントを刺激してくれながらも、跡部の顔に余裕は全く感じられなかった。
本当はもう宍戸の中に入りたくて仕方がないのだ。しかし、いきなりそんなことをすれば
間違いなく宍戸の身体は傷ついてしまう。今日はとにかく気持ちよさだけを味あわせてや
りたい跡部にとって、それは御法度なのだ。
「あっ・・・ぁん・・・跡部っ・・・あ・・・・」
「だいぶ解れてきたな。宍戸、まだ無理そうか?」
「はぁ・・・もう・・・ちょい待って・・・・」
慣らす手を休めることなく跡部は自分の爆発してしまうそうな欲望を抑える。指から宍戸
の身体の熱が伝わるために繋がりたいという欲求がさらに強くなってしまうのだ。
「ハァ・・・・」
あまりにも余裕のない跡部の表情を見て、宍戸も何だか興奮してきてしまう。内側はひた
すらイイポイントだけを擦られる。そろそろもっとしっかりとした刺激が欲しいと宍戸の
身体も疼いていた。
「跡部・・・も・・いいぜ・・・俺も跡部に早く・・・来て欲し・・・」
「それじゃ・・・挿れるぜ・・・?」
「おう・・・・」
息を乱しながら、跡部は宍戸の中に身を進める。中に入った跡部自身は少し強めの力で締
めつけられ、果てしない快感を全身に伝える。もちろん敏感な部分を一気に突かれた宍戸
も跡部と同じくらいの快感を感じていた。
「くっ・・・あ・・・」
「あっ・・・ああっ・・・んっ・・あん・・・」
「ヤベ・・・すげぇイイ・・・」
「何か・・・跡部の今日いつもよりデカイっ・・・」
「仕方ねぇだろ。痛むか?」
「別に・・・。むしろ・・・いつもよりイイ・・・・」
跡部の首に腕を回しながら宍戸は呟く。そんな宍戸に跡部はまたドキンとさせられる。も
う宍戸を気遣うだけの余裕は残っていなかった。自分が求めるままに動いてしまう。しか
し、それでも宍戸は跡部の望む反応を見せ、聞きたいと思う声を聞かせ続けた。
「あ・・とべ・・・キス・・・して・・・」
「ああ・・・」
あまりの気持ちよさに意識を失いかけながらも宍戸はそんなことを頼む。宍戸の求めるま
ま跡部は熱いキスを与えてやった。宍戸を深く思いながらのそのキスは、溶かされたチョ
コレートのように甘く、舌が痺れるミントのような刺激を持ったものだった。
(跡部のキスって・・・なんかミントチョコみてぇ・・・・)
そんなことを考えながら、宍戸は地上の天国に堕ちた。それと同時に跡部も溢れる宍戸へ
の思いを宍戸自身に注ぎ込んだ・・・。
すっかり疲れ果ててしまった身体を二人は柔らかいベッドに預け、先程の余韻に浸りなが
らぼーっとしている。
「跡部・・・」
「何だ?宍戸。」
「チョコ食いてぇ。」
「チョコって、俺が夕方お前にやったミントチョコか?」
「それ以外に何があるんだよ。それだそれ。」
宍戸に言われ、跡部はミントチョコを鞄の中から出した。ミントチョコを出したと同時に
宍戸からもらったペンダントの箱がコロンと落ちる。ついでだとそれも持って宍戸のもと
へと戻っていった。
「ほら。」
「おっ、サンキュー。疲れた体にはいいよなあ、ミントチョコ。」
「チョコレートはいいかもしれねぇけど、ミントチョコってどうよ?」
「いいじゃねぇか。ほれ、跡部も食え。」
「ああ。」
宍戸にチョコを渡され跡部もそれを口に含む。甘い中にある爽快感は今の二人にはとても
美味しく感じられた。
「美味いな。」
「だろー?やっぱ、美味いよなミントチョコ。」
「俺があげた奴だぜ?」
「気にすんなって。・・・そういやさ、してるときお前にキスされて思ったんだけど、跡
部のキスってなんかミントチョコみたいだよな。」
「はあ?」
自分のキスをミントチョコに例えられ、跡部は微妙な気分になる。ミントチョコに似たキ
スなど想像がつかない。
「跡部のキスってな、すっげぇ甘いんだけど、舌が痺れるような刺激があんだよ。これっ
て、ミントチョコみてぇだと思わねぇ?」
「あー、まあ、例えられなくはねぇな。」
宍戸の説明に跡部は何となく納得。美味しそうにミントチョコをパクパク食べる宍戸を見
て、まあ悪くはないなと感じた。
「ミントチョコも跡部のキスも俺は好きだぜ。どっちも俺の好きな味だ。」
箱いっぱいのミントチョコを食べ終え、満足そうな笑みを浮かべて宍戸は言った。それを
聞いて跡部は何だか嬉しくなる。これならミントチョコに例えられても全く嫌な気はしな
いだろう。
「さてと、腹いっぱいになったことだし、もう寝るか。」
「その前にこれつけろよ。」
もう眠るかという宍戸に跡部はネックレスを差し出す。さっき鞄の中から出てきたペアネ
ックレスだ。
「これ、俺があげたネックレスじゃん。今つけんのか?」
「ああ。せっかくお前にもらったもんだ。バレンタインの夜くらいつけててもいいんじゃ
ねぇの?」
「確かに。でも、素っ裸にネックレスだけって微妙じゃねぇ?」
「いいんだよ。気分だ気分。」
「まあ、いいや。バレンタインだしな。」
もう全てバレンタインデーだということで許されるらしい。二人を繋ぐペアネックレスを
つけながら、ふかふかの布団に入る。寝る前に完璧ミントチョコ味のキスをして二人は瞳
を閉じた。ヘブンリーベッドはあっという間に二人を夢の世界へと運んでしまう。一年に
一度のバレンタインデー。そんな夜に二人は甘い夢を見るのであった。
END.
岳忍へ 滝鳳へ