Sweet Valentine 〜その3〜

「さてと、この後どうしよっか?」
跡部や岳人達と別れた滝と鳳は、すっかり暗くなった夜道を歩いていた。
「もう少し一緒にいたいですよね。でも、すぐに家に帰りたいって気分じゃないし・・・」
「だよねー、俺も同感。」
もうすっかり日は暮れてしまったのだが、二人はまだ家には帰りたくないようだ。しかし、
このまま夜道をぶらぶら歩いているわけにもいかない。どうしようか考えつつ、お互いに
黙っていると滝が思いついたように声を上げた。
「あっ、そうだ!」
「どうしたんですか?」
「長太郎、ラブホ行ってみない?」
「へっ・・・?」
鳳は自分の耳を一瞬疑った。すぐには滝の言ったことが理解出来ない。しばらく考えてみ
てその提案はよいのかどうかを判断する。鳳の判断基準からすれば、当然すぐには受け入
れがたいものだ。
「俺、一度行ってみたかったんだよねー。ねぇ、行ってみようよ。」
「えっ・・・あっ・・・ラブホって、カップルがそういうことするとこですよね?」
「そうだよ。休憩くらいだったらそんなにお金かかんないと思うし、おもしろそうじゃん。」
「で、でも、俺達男同士ですよ。てか、それ以前に中学生ですし・・・」
「大丈夫だって。この前、跡部が宍戸と行ったとか話してたし。男同士ってバレるとヤバ
イから宍戸に女装させたって言ってたけどね。」
楽しそうに笑いながら滝は話す。しかし、そんな話をされたところですぐにはオッケー出
来ない。鳳は顔を真っ赤にして悩んでいた。
「そんなに構えることないって。もし、男女に見せたいんだったら、俺の方が女役になる
からさ。行ってみよう?長太郎。」
「で、でも・・・」
「ほら、こうしたら俺、女の子に見えるでしょ?」
鳳からもらった髪飾りを頭につけ、にこっと笑ってみせる。服装もそれほど男っぽい服と
いうわけではないので、姿形だけ見れば、本当に女の子のようだ。
「見えますけど・・・でも、やっぱりそんなところ入るの恥ずかしいですよ。」
「どうしてもダメ?」
首を傾げて滝は鳳のことを上目づかいで見上げる。蝶々の髪飾りがいつも以上に滝を色っ
ぽく見せている。さすがの鳳もこの表情にはかなわなかった。
「少し・・・だけなら・・・・」
「本当!?」
「はい・・・・。」
「やった。じゃあ、行こう!」
「わっ、ちょっと滝さんっ!?」
鳳の許しを得ることが出来、滝は子どものようにはしゃいで鳳の手を取って走り出す。ま
だまだ恥ずかしさは残っているが、滝も喜んでくれるし、もしかしたら想像よりもおもし
ろいかもしれないと思いながら鳳は自分の心を納得させた。

普段はあまり入ったことのない通りに入ると、見るからにそういうホテルですというよう
な名前の看板がずらっと並んでいた。
(うわあ、こんな通り入ったの初めてだよ。どのホテルもきっとみんなラブホテルなんだ
ろうなあ・・・)
ドキドキしながら、あたりを見回していると滝が突然立ち止まる。
「長太郎。」
「は、はい!」
ただ名前を呼ばれただけなのに、緊張から思わず声が裏返る。しかし、滝はそんなことは
全く気にせず、目の前にあるかなりファンシーな建物に目を奪われていた。
「ここにしよう。何か外装が可愛いし、値段もなかなかお手頃だよ。」
「そ、そうですね。」
ドキドキしまくっている鳳とは対照的に滝は実にわくわくしたような面持ちで店内へと入
ってゆく。中に入ってもファンシーな雰囲気は変わらず、どこか女の子向けのようなイメ
ージが溢れていた。受付は記入式で、しゃべる必要がなかったために滝が男だということ
はバレなかった。
「よかった。さすがに女の子の声は出せないからね。」
「見かけは完璧に女の子ですもん。しゃべらなきゃバレないですよ。」
「でも、する時は長太郎が女の子の方だからね。」
冗談っぽくそう滝がそう言うと、鳳はまた顔をリンゴ色に染めた。そんな可愛い反応ばか
りする鳳に滝もだいぶドキドキしてきていた。
「あ、この部屋みたいだよ。」
受付で渡された鍵に書かれた番号と同じ番号の部屋を見つける。どうやらそこがこれから
二人が使う部屋のようだ。ドアを開けると二人はその様相にビックリ。その部屋は何もか
もがハートで埋め尽くされている。
「すごーい。ハートが超いっぱい。」
「ホント、すごい部屋っスね。」
「バレンタイン仕様って感じだね。さてと、そんなにたくさん時間あるわけじゃないし、
まずシャワーでも浴びる?」
「えっ?ここでするんですか?」
「当たり前じゃない。ココ、どこだと思ってるの?」
「ですよね・・・」
こんな場所に来ることを許してしまったんだから仕方ない。鳳は苦笑しながら、部屋の奥
へと進んだ。
「シャワー、どっちから使う?俺はどっちでもいいよ。」
「じゃあ、俺が先でいいっスか?何かドキドキしっぱなしで、結構汗かいちゃってるんで
すよね。」
「真冬なのに?そんなにドキドキしてたんだ。」
クスクス笑いながら滝がそう言うと、鳳は恥ずかしそうに返した。
「しょ、しょうがないじゃないですか。滝さんといるとドキドキしちゃうんですもん。」
「俺だってそうだよ?ドキドキするのはお互いさま。ほら、早く入ってきちゃいな。」
「あっ、そうですね。」
鳳がパタパタとシャワールームに入っていくと、滝はハートのクッションが置いてあるソ
ファに腰かけ、軽く溜め息をついた。
「長太郎の反応、一つ一つが可愛すぎだよ。ホーント、飽きさせないよね。」
ハートの電球がいくつか垂れ下がっている天井を見上げながら滝は呟く。余裕があるよう
に見せていても、本当は鳳以上にドキドキしているのだ。ドアの方から聞えるシャワーの
音を聞きながら、これからすることを考えてみる。それだけでもう、心臓が壊れてしまい
そうなほど鼓動が速くなるのだ。
「滝さん。」
「ん、何?」
「もうそろそろ出るんで、入る用意しといてください。」
「うん、分かった。」
シャワールームから声をかけられ、滝はソファから立ち上がる。シャワーが止まる音が聞
えたので、脱衣所のところに入ると腰にタオルを巻き、髪から雫を滴らせる鳳が体を拭い
ていた。
「ここのシャンプーすごくいい匂いですよ。いろんなハーブが入ってるみたいです。」
「ふーん、そうなんだ。それじゃあ俺も使ってみるよ。」
「部屋で待ってるんで、早く出てきてくださいね。」
「うん。」
こんな何気ない会話もひどく照れくさく感じる。ラブホテルにいるという事実が無意識に
そう感じさせているのだろう。滝がシャワールームに入ると鳳は自分の服を前にしてしば
し悩んだ。シャワーを浴びたはいいものの、この後どんな格好をすればいいのかが分から
ないのだ。
(この場合ってどんな格好して待ってればいいんだろう?全部着るのも面倒だし、だから
って何にも着てないわけにもいかないし・・・)
「これだけでいいか。」
結局、間をとって下着とセーターの下に着ていたTシャツだけを着ることにした。部屋の
中は暖房がきいていて、そんな格好でも全く寒くは感じないのだ。残りの服は後で着替え
るためにキレイにたたんで、部屋に持っていった。
「ふぅ・・・何か誕生日にこんな場所に来るってのも変な気分だな。でも、思ったより可
愛い感じの部屋だし、バレンタインデーとしてはちょうどいいかも。」
さっき滝が座っていたソファに腰かけ、鳳はポツリと呟く。ふと顔を上げるとベッドの横
にあるカゴが目に入った。何だろうと近づいて見てみると、中には赤やピンク、黄色など
様々な色のハートが描かれた小さな袋がたくさん入っている。
「何だろ、コレ?」
好奇心から袋の一つを開けてみた。中身はラブホテルではお決まりであるコンドーム。使
ったことがないわけではないが、想像していなかったものなので、鳳はドキっとして思わ
ず手から離してしまった。
「あっ、いけね・・・」
落ちたそれを拾い上げるとふわっと甘い香りが漂った。袋ごしにその匂いを嗅いでみる。
それはまぎれもなくチョコレートの匂いであった。
「こんなものまでバレンタイン仕様なんだ。」
恥ずかしいなあと思いつつも、何となくおかしくて鳳は笑う。他にもおもしろいものがな
いかとベッドの周りをいろいろ物色していると、様々なものがしまってあった。それは、
使えそうもないような恥ずかしいものであったり、パーティーにも使えそうなおもしろグ
ッズであったりと、とにかくいろいろなものであった。その中でも、鳳が特に興味を持っ
たのはハート型の鈴がついた首輪と女の子がつけるような髪留めのピンだ。ピンにはもち
ろん真っ赤なハートがくっついている。
「これとかなら、別につけてもいいかな?」
こういうものをつけていれば、もしかしたら滝が喜ぶかもしれないと思い、ベッドから下
りて、鏡を見ながらつけてみる。
「おかしくはないよな。」
ハートの鈴が前に来るように首輪をつけ、前髪をピンで止めてみる。ちょっと女の子っぽ
くなるものの、それほど違和感はなかった。
「はあ、気持ちよかった。遅くなってゴメンね、長太郎・・・・」
髪を拭きながらシャワールームから出てきた滝は、予想もしてなかった鳳の姿を見て硬直
する。
「あっ、滝さん。ベッドのまわりあさってたら、こんなのが出てきたんですよ。ちょっと
つけてみたんですけどおかしいですか?」
滝の方を向いてハニカミながら鳳はそんなことを言う。Tシャツ一枚に首輪とハートのピ
ン。下手に誘われるよりよっぽどクる。滝は髪を拭いていたタオルをバサっと落とし、鳳
の側まで歩いてゆく。しかし、まだ理性は何とか残っていた。
「長太郎、そんな格好してると俺、我慢出来なくなっちゃうよ?」
「別に我慢する必要とかってないんじゃないんですか?こんな場所ですし。」
「そう・・・だよね・・・・」
鳳の言葉にギリギリ保っていた理性の糸が一気に切れた。少々強引に鳳の腕を引き、ベッ
ドの上に押し倒す。思った以上に強い力で引っ張られたので、鳳は驚いたが、予想出来な
いことではなかったので、怖がったりするということは全くなかった。
「ゴメンね、長太郎。俺、思った以上に余裕ないみたい。」
「大丈夫ですよ。俺、それほどやわじゃないですから。」
ニコっと笑いながら、鳳はキスをねだるように腕を伸ばした。誘われるまま、滝は柔らか
な鳳の唇に口づける。鳳もかなりキていたようで、唇が触れた瞬間、伸ばしていた腕を滝
の首に絡めた。
「ぅ・・・ん・・・・」
「ハァ・・・長太郎・・・」
「ふ・・はぁ・・・滝さん・・・」
たった一度のキスでも二人の心拍数と呼吸はかなり上がっていた。しかし、一回のキスで
足りるわけがなく滝は何度も繰り返し鳳に接吻し、口の中を探る。それと同時に真っ白な
Tシャツのなかに右手を滑り込ませ、敏感な場所を撫でてゆく。
「ん・・・ふぁ・・・ぁん・・・」
「長太郎、いったん腕、離してくれる?」
首に腕を回されたままだと動けないので、滝は額にキスをしながら鳳に頼む。ゆっくりと
腕を下ろすと、鳳は目元に涙をためながら滝の顔を見た。
「長太郎、すごくイイ顔してる。」
「そんなこと・・・ないです・・・」
「ううん。涙目で、頬っぺた赤くて、唇もキラキラしてて・・・ホント、そそられるよ。」
「滝さん・・・」
優しい微笑みの中にときどき見せる鋭い目つきが、鳳の心をしっかり捉えていた。ただ優
しくされる時とは違う腰のあたりを疼かせるゾクゾクする感覚。滝のその目を見ていると
そんな感覚を感じずにはいられなかった。
「どうしようかな・・・・」
「どうしたんですか?」
「いや、長太郎着てるTシャツ、脱がした方がいいかめくりあげるだけがいいかちょっと
迷ちゃって。」
鳳のTシャツに手をかけながら、滝は呟く。そんなのどっちでもいいのになあと鳳はくす
くす笑った。
「どっちでもいいっスよ。」
「そう言われると余計迷っちゃうじゃん。うーん、じゃあ、今はめくるだけにしとこう。」
脱がすのは後でも出来るしということで、滝はめくるだけの方を選んだ。めくったことで
露わになった肌にちゅっと小さな花びらをつけてゆく。くすぐったいような少し痛いよう
な、それでいて気持ちいいような感覚に鳳は思わず身を震わせる。
「んっ・・・!」
「今日はいっぱい跡つけてあげる。」
「何で・・・ですか・・・?」
「今日は長太郎の生まれた日じゃない?生まれた日に生まれたままの姿に俺のだって印を
つけておきたいんだ。・・・いいだろ?」
「はい・・・・」
ためらいがちに尋ねる言葉は、鳳が自分のことを想っていてくれているかの確認の意味も
込められていた。そんな言葉に鳳は即答で頷く。それが嬉しくて滝は幸せそうに微笑みな
がら、さらに印を増やしていく。印が増えるたび、鳳も言いようもない充足感を感じてい
た。
「長太郎・・・」
「ハァ・・・はい。」
「そろそろ下の方いい?」
「そういうことは・・・・聞かなくてもいいですよ。」
上半身へのキスだけでも鳳の体はかなり反応していた。それは聞かなくとも見ればハッキ
リ分かった。わざわざ聞かれることが恥ずかしくて鳳は赤くなる顔を拳で覆う。
「こういうとこって確かローションとかあるはずだよね?」
「はい。確かそこの扉のところに入ってましたよ。」
さっき物色していたときに見つけた鳳は滝にその場所を教える。ベッドのすぐ横にある棚
の扉を開けてみるとハートマークのたくさんついたパッケージのそれが入っていた。
「使った方がきっと気持ちイイと思うんだよね。」
「俺は別に構いませんよ。」
「それじゃあ、使わせてもらうね。」
小さなボトルに入ったそれを手に取ると滝は鳳の下着を脱がしてしまう。Tシャツの時と
はだいぶ差があるなあと思いながらも、鳳は特につっこみはしなかった。
「長太郎、ちょっと足開いてくれるかな?それじゃ、少しやりにくいんだけど。」
「あっ・・・スイマセン・・・・」
下着を脱がされ、鳳は無意識に足を閉じてしまっていた。Tシャツはめくられたままなの
で、足を開けば何の覆いもなく全てが滝の目にさらされる。
「ふふ、いい眺めー。」
「何言ってるんスか・・・・恥ずかしいですよ・・・・」
「上半身へのキスだけで、結構感じてたみたいだね。でも、これからもっと気持ちよくさ
せてあげるよ。」
そう言いながら、滝は持っていたローションを鳳のモノに垂らした。ヒヤリとする感覚に
鳳の体はビクンと震える。
「あっ・・・冷たっ・・・・」
「すぐに熱くなるよ。」
自分の手にもたっぷりと垂らし、その手で既に勃ち上がってる鳳の熱を包む。いつもとは
一味も二味も違う感覚に鳳はすぐに夢中になった。ひどく濡れた音が耳につく。しかし、
それさえも気にならないほど、ローションを使った愛撫は気持ちのいいものであった。
「ん・・・あっ・・・ぁん・・・・」
「どう?長太郎。」
「ハァ・・・気持ち・・イイです・・・」
「これだけ濡れてれば、後ろもすぐに慣らせそうだよね。」
「えっ・・・?・・・っ!・・・んく・・ぅあっ・・・」
前を弄っていた手を後ろに移動させる。ローションですっかり濡れた指はいとも簡単に鳳
の内側へと埋め込まれた。
「あっ・・・滝さんっ・・・やっ・・・ダメです・・・・」
「何が?全然ダメじゃないよ。いつも以上に俺の指、咥え込んでるよ?」
「ひっ・・・あぁ・・・そんなに動かさないで・・・くださっ・・・」
いつもより濡れたそこは滝の指の動きを滑らかにする。器用に動くその指は正確に鳳の感
じるポイントを突いていた。後ろを慣らしていても、空いている方の手で前への刺激も忘
れてはいない。敏感な部分への濡れた刺激は確実に鳳を追いつめていった。
「滝さんっ・・・あっ・・・く・・ぅん・・・もう・・・・」
「なら、俺の・・・挿れてもいい?」
「えっ・・・?」
挿れる準備としてはもう十分だった。限界前のそこはもっと確かな楔を埋め込んで欲しい
と誘うようにひくついている。そんな誘いに滝も耐えられなくなったのだ。
「俺もそろそろ限界なんだ。」
「でも・・・今、挿れられたら俺・・・・・」
「いいよ。感じてくれてるなら、別に我慢しなくて。俺は繋がった瞬間果てる長太郎の顔、
見てみたい。」
そう言いながら滝は半ば強引に鳳の中に入っていった。すっかり慣らされたそこは軽々と
滝を受け入れる。しかし、ひどく敏感になっている鳳の身体はその衝撃に耐えることが出
来なかった。
「あっ・・・ああ―――っ!!」
「くっ・・・」
銀色の髪を揺らし、鳳は果てる。熱が放たれた瞬間、一気に締めつけられた滝は少しうめ
きはするものの何とか堪えることが出来た。
「はっ・・・ハァ・・・ぁ・・・ハァ・・・・」
「ハァ・・・長太郎の顔、すごくキレイだよ。もっと、そういう顔見せて・・・」
鳳の前髪をかき上げながら滝は言う。熱い息を吐きつつ微笑むその顔に鳳は思わず見惚れ
てしまった。呼吸をするのも忘れてしまうほど、魅せられる。自分でも気づかないうちに
鳳はそんな滝の唇に自分の唇を寄せていた。
「長太郎・・・?」
「俺、今すごく今日が誕生日でよかったと思いました・・・」
「どうして?」
「14年前の今日、もし俺が生まれてなかったら滝さんと会ってないですもん。」
「・・・・・・。」
「俺、今、滝さんとこうして一緒にいられることが・・・すごく嬉しいです・・・・」
「長太郎・・・・」
鳳の言葉に滝はひどく感動する。繋がっている身体と同じくらい、心の奥が熱くなった。
「長太郎。」
「はい・・・」
「生まれてきてくれて、ありがとう。」
「滝さん・・・・」
何の飾り気もなく、心からの素直な気持ちとして滝は本当に幸せそうに微笑みながらそう
言った。親がいうことはよくあるセリフであるが、恋人同士ではあまり使わない言葉であ
ろう。それでも滝は間違いなくこう思ったのだ。
「大好きです・・・滝さん。ずっと一緒に居てください・・・・」
「うん。俺もだよ。俺は長太郎の側にずっといる。」
身体も心も満たされ、深い接吻を交わしながら二人は一つになった。周りにあるたくさん
のハート達はまるで二人の心を表しているかのようであった。

行為が終わってしばらくは、ベッドに寝転がりつくろいでいたが、そんなにゆっくりはし
ていられない。もともと休憩で部屋を取っていたので、時間が来たら出なければいけない
のだ。
「ゴメンね、長太郎。あんまりゆっくり出来なくて。」
「いえ、全然平気っスよ。」
「あっ、もうこんな時間。それじゃあ、出ようか。」
「はい。」
部屋を出ると受付のところで代金を払い、二人はホテルの外へ出る。バレンタインという
こともあり、ホテルを出る際小さなハートのチョコレートをもらうことが出来た。
「あー、楽しかった。ちっちゃいけどチョコももらえたし。」
「そうですね。」
「もうだいぶ遅い時間だよね。帰らなくちゃ。」
「滝さん・・・」
「何?どうしたの、長太郎?」
帰ろうかという言葉を聞き、鳳はひどく寂しそうな顔をする。夜、遅いのは分かっている
がまだ滝と一緒にいたいのだ。
「まだ、帰りたくないですよ・・・・」
「でも、そろそろ帰らないと親御さん心配するよ。」
「でも・・・」
帰りたくないオーラを出しまくっている鳳を見て、滝は携帯電話を取り出しどこかに電話
をかける。
「あっ、こんばんは。夜分遅くにすいません。長太郎くんと部活が一緒の滝です。今、長
太郎くん、うちに来ているんですが、もう遅いので泊まってもらってもよろしいでしょう
か?・・・・はい、ありがとうございます。いえ、お気になさらなくても結構ですよ。は
い、それじゃあ、失礼します。」
「滝さん?」
電話を切ると滝は再びボタンを押し、また別のところに電話をかける。
「あ、もしもし母さん?今、後輩の家にいるんだけど、もう遅いから泊まってもいいかな
?うん、大丈夫、迷惑なんてかけないって。明日の昼頃には帰ると思うから。うん、分か
った。それじゃあね。」
「えっ、ちょっと滝さんっ・・・」
「これで、まだ一緒にいられるよ。どうせだったら、二人きりの方がいいでしょ?」
このまま二人きりでいるために、自分と鳳の家に電話をかけ滝は飄々と嘘をついた。こう
いうことを平気でしてしまうのが、滝のすごいところであろう。悪戯に成功した子どもの
ように笑いながら、滝は鳳の手を握る。
「さて、これからどこ行こうか?」
「さすがっスね、滝さん。あっ、そうだ!これからテニスしに行きません?ストリートの
コート、この時間なら空いてるはずですし。」
滝のしてくれたことに全く意見せず、むしろノリノリでテニスをしに行こうなどと鳳は言
い出す。さっきの今で、体力あるなあと滝は感心してしまう。
「さっきあんなことしたのにテニスしに行くんだ。長太郎もタフだねー。」
「いいじゃないっスか。久しぶりに試合しましょうよ。」
「いいよ。朝までつき合ってあげる。」
テニスは滝だって、大好きなのだ。嫌だとは言うはずがない。明かりの灯る街を抜け、二
人はストリートテニスコートに向かった。大好きな人と好きなことをしながら、朝まで一
緒にいるということ。それはバレンタイン、鳳にとっては誕生日にふさわしい、お互いへ
のプレゼントになるのだった。

                                END.

            跡宍へ          岳忍へ

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