Sweet Valentine 〜その3〜

岳人の家に行き、夕飯やお風呂などしなければいけないことを終えた二人はパジャマを着
て、くつろいでいた。
「あー、今日はいろいろ楽しかったな。」
「せやな。」
「そういえばさ、宍戸とか鳳がプレゼントあげてる時、第三段階とかなんだか意味分かん
ねぇこと言ってたじゃん?あれって何?教えてくれるって言ってたよな。」
「ああ、あれはな、ちょっと勝負しててん。」
「勝負?」
岳人は夕方忍足が宍戸や鳳がバレンタインのプレゼントの時にぶつぶつと口にしてた言葉
が気になってしょうがなかった。確かに状況を知らない者が聞いたら、意味の分からない
言葉に聞えるだろう。それがもう知りたくて岳人はうずうずしてたのだ。
「それぞれのパートナーにプレゼントをあげて、誰が一番喜ばせられるかを勝負しててん
けど、みんな自分の考えた一番嬉しがってるって喜ばれ方したから勝負は引き分けだった
んや。」
「へぇ、そんなことしてたのか。」
「まあ、俺としてはいい感じのラブ・ロマンス見せてもろたからそれで満足なんやけどな。」
「侑士・・・本当は勝負よりそっちの方が目的だったんじゃねぇのか?」
「あれ?バレた?」
嬉しそうに話す忍足を見て、岳人は呆れ気味な口調でつっこむ。同じ部活のメンバーをラ
ブ・ロマンスネタに使うとは、忍足もなかなか曲者である。
「で、侑士は俺を喜ばせるためにあんなこと言ったんだよな?」
「まあな。」
「それは、本気で言ったのか?それともその場のノリでか?」
少々不機嫌気味な口調で岳人は尋ねる。忍足なら後者の理由で言ったとも限らない。
「そりゃ、俺だって岳人に喜んで欲しい思ってプレゼントとか言葉とか用意しててんで。
冗談だけであんなこと言うわけないやん。」
「本当かあ?」
「ホンマやって。何なら試してもええで。」
夕方に宍戸や鳳のプレゼント贈呈シーンを見て、忍足もいろいろ感化されているらしい。
今日はいつもより積極的に岳人を誘っている。
「そこまで言うならやってやるぜ。っと、その前に・・・」
忍足に乗せられ、やる気満々になった岳人はもらった板チョコの紙を外し、アルミに包ま
れたまま電気ストーブの前にかざす。
「岳人、そないなことしたらチョコレート溶けてまうで。」
「いいんだよ。わざとそうしてんだから。」
室温もそれほど低かったわけではないので、板チョコはあっという間に柔らかくなってし
まった。
「よっし、これくらいでいいだろ。よっしゃー、侑士、ベッド行くぜ。」
「もっとマシな誘い方出来んのかい・・・」
単刀直入に岳人の誘い文句に苦笑しながら、すぐそばにあるベッドに移動した。それほど
大きくないベッドに仰向けになり、岳人に視線を移す。岳人は忍足を組み敷くような形で
子供っぽく笑っている。
「今度は俺が侑士を悦ばす番だぜ。」
「・・・悦ばすの漢字、絶対俺らの喜ばすの漢字と違うやろ?」
「さあ?そんな細かいことは気にしないで、とにかく侑士は俺に全部任せてりゃいいんだ
よ。」
「自分勝手やなあ。」
いろいろなつっこみを入れながらも、忍足も楽しそうに笑っている。何だかんだ言っても
岳人とこういうことをするのが好きなのだ。そんな忍足の頬に岳人はちゅっと軽くキスを
する。そして、パジャマのボタンを一つ一つ外し、さっきストーブの前で溶かしたチョコ
レートを手に取った。
「今日の侑士はチョコレート味なんだよな?」
「そうなん?」
「自分で言ってたじゃん。このチョコはそのためのもんなんだろ?」
「わっ、ちょ・・・岳人!?」
確かに忍足は自分でチョコレート味の俺と言っていたが、それは完璧にノリであった。ま
さか、本当にチョコレートを使われるとは思っていなかった。しかし、岳人は楽しそうに
忍足の白い肌に溶けたチョコレートを塗りたくっている。
「よし、まずこんなもんか。」
「せっかく風呂入ったのに、これじゃ意味ないやん・・・・」
「終わったら、また入れりゃいいじゃん。それじゃいただきまーす。」
首元から順番に岳人は忍足の体に塗られたチョコレートを舐めとってゆく。チョコレート
は薄く塗られてあるだけなのだから、それは身体を舐められているのと大して変わらない。
いつもより丹念に口づけてくるその感覚に忍足は思わず、熱い吐息の混じる声を上げる。
「ぁ・・・ん・・・」
「このチョコ、超うまいぜ。すげぇくせになりそうな味♪」
「ハァ・・・普通のチョコやん。」
「違ぇーよ。侑士味のチョコ。あれ?チョコ味の侑士か?ま、どっちでもいいや。」
「わけ分からんわ・・・」
ややこしいたとえを言う岳人に呆れる忍足だが、岳人はそんなことは全く気にしてはいな
い。忍足の身体に塗られたチョコレートを再び食べ始める。食べるといってもただ普通に
舐めとるだけの岳人ではない。忍足が大きく反応示す部分は、わざとらしく時間をかける。
「・・・っ、岳人っ・・・そこ・・は・・・・アカンっ・・・」
「えー、そんなこと言われてもここ思った以上につけちゃってさあ。」
「うっ・・・ぁんっ・・・やめっ・・・」
「ここの部分、特にうまいぜ。もっと食ーべちゃおう。」
「やぁ・・・そないに・・・噛むなぁ・・・」
胸のあたりのチョコを食べていると、忍足は特に敏感に反応する。それがおもしろくて、
岳人は他の部分の倍くらいの時間をかけて、そこの部分のチョコレートを舐め取った。両
方の胸が終わった時には、忍足はひどく涙目になり、激しく呼吸を乱していた。
「はあー、結構食ったな。どうよ?チョコレートになった感想は?」
「ハァ・・・どうもこうもあらへん。岳人・・・敏感なとこばっか・・・時間かけて食う
んやもん・・・」
「そんなことないぜ?侑士が敏感すぎなんだよ。」
「俺の所為かい・・・それより・・・チョコレート食べ終わったからって、こんなとこで
終わらせんよな・・・?」
こんな中途半端なところで終わらせてもらったら困ると、忍足は恥ずかしがりながらもそ
う尋ねる。そんな忍足の表情を見て、岳人はからかってやろうとふっと笑った。
「どうしよっかなあ。チョコ食って結構満足しちゃったし。」
「岳人っ・・・!」
「そろそろ眠たくなってきちゃったしぃ。」
「い、嫌やっ・・・こないなとこでやめんといて・・・・」
続けて欲しいと必死になって頼む忍足を見て、岳人は大笑い。まさかここまで、率直に言
われるとは思っていなかった。
「あははは、こんなとこでやめるわけねぇじゃん。全く可愛いね〜、侑士は。」
「岳人・・・」
せっかく恥ずかしい思いをして頼み込んだのに笑われ、忍足は今にも泣き出してしまいそ
うだった。ちょっとやりすぎたかなあと反省し、岳人は忍足の頭を撫で、いまだつけたま
まだった眼鏡を外した。
「ゴメンゴメン。冗談だって。これからが本番だぜ。最っ高によくしてやるからな!」
「・・・・そんなにからかうな。」
「もうからかったりしねぇよ。ここからは真剣勝負。」
「何の勝負やねん?」
真面目にそんなことを言う岳人に、忍足は思わず笑ってしまう。悪くなりかけてた機嫌も
少しはよくなったようだ。
「というわけで、下脱がすぜ、侑士。」
「えっ・・・いきなり・・・」
「続き、して欲しいんだろ?ちゃんとしてやるよ。」
自分から言っておいてまだ早いなどとは言えない。頬を赤く染めて、頷くように忍足は頷
いた。
「うーん、座った方がやりやすいかもしれねぇな。侑士ちょっと起き上がってくれる?」
「ああ・・・これでええ?」
「ベッドの背もたれんとこよっかかった方が楽だと思うけど。」
「こう?」
「そうそう。」
パッパと忍足のズボンと下着を脱がせると、岳人は座るように指示を出した。よく分から
ないがこの方がやりやすいのだろうと忍足は素直に従う。背もたれに寄りかかり、力の抜
けている忍足の足を軽く開かせ、岳人はその足の間に身を置いた。
「キスしながらしたらいいかなあと思ってさ。これならキスもしやすいし、下もちゃんと
弄れるだろ?」
「まあ・・・そやな。」
身長差があるために、やりやすい体勢とやりにくい体勢があるらしい。出来るだけお互い
が楽な姿勢になれるようにと岳人は忍足にこんな体勢をとらせたのだ。右手で忍足の頬に
触れ、ゆっくりを唇を重ねる。舌を滑り込ませると同時にフリーな左手で岳人は忍足の熱
に触れた。その瞬間、忍足の身体がピクンと震える。
「・・・ん・・・ぁ・・・・」
(岳人の口ん中メッチャチョコレート味やん。甘い・・・)
さっきのチョコレートの味が口の中にバッチリ残っていて、まさに二人のキスはチョコレ
ート味だった。そんな甘いキスと下半身から伝わる甘い痺れで、忍足の頭の中は次第にぼ
―っとしてくる。何も考えられない状態になると、忍足はキスの合間に小さな喘ぎ声を漏
らし始めた。
「・・・ぁん・・・あ・・・あっ・・・・」
「侑士、そんなにいいの?」
「ハァ・・・岳人の口ん中甘くて・・・・触られるのも気持ちよくて・・・何も考えられ
へん・・・・」
「ふーん、そっか。いいよ、考えられなくて。そのまま、素直に感じてな。」
「うん・・・・」
あまりにも思考能力が低下しているために、普段なら恥ずかしがって言わないようなこと
も自然に口に出している。それに気づいた岳人はこのままだったら、もっといいセリフが
聞けるのではないかと考えた。口づけするのもやめず、下への刺激ももっと強いものにし
ていく。頬に添えていた右手を左手のあった場所に持っていき、左手はもっと奥の蕾まで
持っていった。
「んっ・・!・・・あっ・・・あん・・・」
「そろそろこっちも弄ってあげないとさ、繋がれないっしょ?」
「岳・・人っ・・・やっ・・あぁ・・・」
「大丈夫大丈夫。痛くはしないから。」
おまじないをかけるようにそう言いながら、岳人は再びキスをする。息をつく暇もなく、
忍足はただただチョコレートのような甘い快感を感じながら、身体を震わせていた。
「そろそろ、大丈夫かな・・・?」
「が、岳・・・人・・・もう・・・無理っ・・・」
震える手で岳人の腕を掴み、忍足は限界であることを訴える。一回イカせてあげた方がこ
の後、楽だろうといったん後ろから指を抜き、利き手である左手で先端を強く擦った。
「くっ・・・あっ・・ああ――-っ!!」
「イったみたいだね。でも、すぐに入れるのは無理だろ?ちょっと待っててやるから、少
し休みな。」
「ああ・・・悪いなあ。」
「いいっていいって。やっぱ、侑士の体の方が大事だしね。」
岳人の心遣いで少し休む忍足だったが、時間が経てば経つほど身体が疼いてくる。岳人に
慣らされた蕾が岳人自身を求めているのだ。こんな感覚では、全く体が休まらないと忍足
は、一分も経たないうちに岳人に声をかけた。
「岳人・・・」
「何?」
「もう・・・ええで・・・」
「えっ、だってまだ一分も経ってな・・・」
「頭では休みたい思ってても、身体が休んでくれないねんっ・・・早く・・岳人に入って
来て欲しい・・・・」
「・・・・侑士。」
潤んだ目で見つめてくる忍足に岳人は完全におちた。ドサッとベッドに押し倒し、性急に
しかし、忍足を気遣いつつ内側へを自身を埋め込んだ。
「あっ・・・ああっ・・・!」
「今日の侑士、ところどころで誘うようなこと言うよな。俺もうずっとドキドキしっぱな
しなんだけど。」
「ええんやない・・・?たまには、こんな感じでも・・・・」
「そんなこと言われたら、マジ止まらなくなっちゃうぜ。」
「今日はバレンタインやもん。言ったやろ?俺がプレゼントやって。」
「言ってたけど・・・」
「だから、今日は岳人の好きにしてええよ。・・・てか、そうして欲しい。」
「サンキュー、侑士。絶対絶対、満足させてやるからな!!」
繋がっているにも関わらず、まだまだ二人とも余裕があるらしい。しかし、岳人が好きな
ように動いてからはどちらも全く余裕がなくなってしまった。話す余裕もなく、ただお互
いの名前を呼び合うだけが精一杯だ。
「ひっ・・あ・・・岳人っ・・・!!」
「ん・・・侑士っ・・・」
どちらも息を乱し、腕をお互いの身体に絡める。身体がそのまま溶けてしまいそうなほど
の快感を感じて二人は同時に果てた。岳人が忍足の胸に体を寄せるとふわっとチョコレー
トの香りが漂う。そんな心地よさに包まれて岳人は瞳を閉じた。

「岳人、もうそろそろどいてくれへん?」
「んー、もう少し。侑士の体、チョコに匂いがしていい感じなんだよ。」
行為を終えても岳人は忍足の上からどこうとしない。チョコレートの匂いがする忍足の体
を相当気に入ってしまったようだ。しかし、忍足からすれば早くどいて欲しい。いくら岳
人の体重が軽いとは言えども疲れた体には重く感じるものなのだ。
「岳人・・・ホンマに重いんやけど。」
「しょうがねぇなあ。なーんてな、ずっと乗かっててゴメンな侑士。」
「はあ、少しは体が軽くなったわ。」
「俺、そんなに重くないぜ。」
「分かっとるよ。今、体疲れてん。軽くても重く感じるんや。」
あまりにも忍足が重い重いというので、岳人はぷぅーと頬っぺたを膨らまし、怒ってみせ
る。そんな岳人を可愛いなあと思いつつ、忍足は笑いながら弁解してみせた。
「あー、でも、今日はいい感じのバレンタインだったな。何たって侑士がプレゼントだか
らな。あっ、そうだ!!」
ニコニコしながら話す岳人だったが、突然何かを思い出したように大きな声を上げる。
「どないしたん?」
「俺、そういえば侑士にちゃんとバレンタインのプレゼント用意してたんだっけ。今、持
ってくるからちょっと待ってて。」
ピョンっとベッドから下り、パジャマを着なおすと岳人は部屋を飛び出て行った。残され
た忍足はベッドに体を起こし、眼鏡をかける。
「岳人からのプレゼントか何やろな?」
ある程度の期待を持ちつつ、忍足は岳人が帰ってくるのを待つ。しばらく待っていると、
岳人が小さなお皿に何かを乗せて戻ってきた。
「待たせたな、侑士。」
「何持ってきたん?ん?何かええ匂いするなあ。」
「はい、これ。俺からのバレンタインプレゼントだ。」
岳人が持ってきたのはほかほかの今川焼きだった。バレンタインになる前に二人で買い物
に行った時、今川焼きが売っているのを見ながら、もらうんだったらチョコよりこっちの
方がいいと言っていたのを覚えていて用意したのだ。
「おおきにな。バレンタインに今川焼きなんてあんまり聞かないけどな。」
「侑士がそっちの方がいいって言ったんだろー?もらうんだったら、チョコレートよりこ
れの方がいいって。」
「まあな。俺はチョコよりこっちの方が好きやもん。うまいやん。」
「侑士らしいよな。ほら、早く食べろよ。冷めちまうぜ。」
「ああ。それじゃ、いただきます。」
差し出されたお皿から今川焼きを取り、口に運ぶ。チョコレートとは違うあんこの甘さは
疲れている忍足の体には打ってつけのものだった。
「やっぱ、うまいわー。ホンマおおきにな岳人。」
本当に嬉しそうに食べる忍足を見て、岳人も何だか嬉しくなった。
「喜んでもらえてよかったぜ。あっ、そうそう。あとな、ついでと言っちゃなんだけど、
この前侑士がおもしろいって言ってた映画の原作本、たまたま見つけたんだよ。だからこ
れもやる。」
机の中にしまってあった本を岳人は素で渡す。ラッピングなどされていなくても、忍足に
はかなり嬉しいプレゼントだった。
「うわあ、これメッチャ読みたかったん。ホンマにもらってええの?」
「おう。映画ならまだしも俺はこんなの読めねーし、第一侑士にあげるために買ったんだ
ぜ。」
「おおきになあ。もうメッチャ嬉しい。」
満面の笑みを浮かべて忍足は岳人に抱きつく。好きなものとなるとテンションや態度がが
らりと変わる。そんな忍足に少々困惑しながらも、やっぱり可愛いなあと岳人は笑った。
「そんなに喜んでもらえると思わなかったぜ。それより侑士、そろそろ服着た方がいいん
じゃねぇ?風邪ひいちまうぜ。」
「せやな。」
岳人に指摘され、忍足はパジャマを着なおした。さっきの疲れなどぶっ飛んでしまい、ほ
くほくとした表情でもらった本を抱きしめている。
「今日は最高のバレンタインや。大好きやで、岳人。」
「ったく、それはさっき俺が言ったじゃねーか。でも、ま、俺もそう思うしな。来年もよ
ろしく♪」
「おう。岳人もな。」
「分かってるって。」
お互いに欲しいものをもらえ、大満足なバレンタインデーになった。一年に一度の恋人達
の日。この二人も例外なく、ハッピーに過ごせたようだ。

                                END.

            跡宍へ          滝鳳へ

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