それぞれのChristmas
(Gakuto&Oshitari)

街が華やぎ始めてから約一ヶ月。今日はそのたくさんの飾りが祝うある聖者の誕生日の前
日だ。そんな誰もが胸を躍らせる日に忍足は寒空の中、白い息を吐きながら大きなクリス
マスツリーの下で誰かが来るのを待っていた。
「岳人の奴遅いなあ。どないしたんやろ?」
そんなことをポツリと呟くと向こうの方から岳人がすごい勢いで走ってくるのが見える。
目の前に来たら遅いと言ってやろうと思った瞬間、岳人は小さな段差につまづき、派手に
転んだ。
「うわっ・・・」
「岳人っ!!」
思わず名前を呼び、転んでいる岳人の側まで駆け寄る。ムクッと起き上がった岳人は慌て
た様子で忍足に謝った。
「わー、ゴメン侑士っ!!俺、超遅れちまった。バス一本乗り過ごしちまって。」
「何で?」
「・・・バス停の前で今みたいに転んで。」
「ぶ・・・あははは、何やっとんねん岳人。そんなに慌てんでもええやん。」
「だってよぉ、早く侑士に会いたくてさあ。」
遅れた理由を聞いて、忍足は大爆笑。一度ならまだしも二度も転ぶというのはそう滅多に
ないことだ。それが面白くて遅れたことを怒ってやろうと思っていたことなどすっかり忘
れてしまった。くすくすといまだに笑いを止められないまま手を伸ばしてやると、岳人は
素直にその手を取った。
「サンキュー、侑士。って、侑士の手、メチャクチャ冷てーじゃん!」
「あー、今日手袋してくんの忘れてしもて。」
「すげぇ待ったよな?本当ゴメンな〜。」
「別にこのくらい何ともあらへんって。」
「いや、これは俺が責任持って温めてやるよ。」
そう言いながら岳人は走ってきたために温まっている自分の手で包み、さらにそこへ息を
かけてゆっくりと忍足の手を温め始めた。
「岳人の手、熱いなあ。」
「走ってきたからね。今、体温相当上がってるぜ。」
「あったまるわー。でも、こないなとこでやるのはちょっとやめた方がええんちゃう?」
「何でだよ?」
「他の人、見とるやん。・・・恥ずかしい。」
手を温めてもらっているのを周りの人に見られるのが恥ずかしいと忍足は軽く顔を赤らめ
る。そんな表情が岳人にとってはものすごくツボであった。しかし、端から忍足の嫌がる
ことは出来ない。パッと両手を離し、温めるのをやめた。
「うーん、確かにそういう顔他の人に見られるのは気に入らないかも〜。」
「はぁ?何言うとるん。」
「別に〜。」
「変な奴やなあ。それより今日はどこ行く?」
「そうだなあ・・・あっ、今日ってクリスマス・イブだろ?きっといろんな店でクリスマ
ス・セールしてると思うぜ。ちょっと回ってみねぇ?」
「ええな。ほな、行くか。」
「おう!!」
ひとまずいろいろな店を回ってみようということで、二人はクリスマス・デートを開始し
た。

「本当、商店街もクリスマスムードだな。」
「せやな。夜になったらもっとすごいんちゃうん?」
「確かに。おっ、あそこの店でクリスマス・セールやってるぜ。ちょっと見てみる?」
「ああ。」
サンタクロースやトナカイ、ツリーや雪の装飾で、街はまさにクリスマスモード。何にも
していなくても気分がウキウキしてくる。そんな装飾を見ながら、岳人と忍足はクリスマ
ス・セールを行っている店を見つけては入ってみる。何度かそんなことを繰り返している
内にどう見ても女の子が入るようなファンシーなアクセサリーショップに足を踏み入れて
しまった。
「岳人、ここってどう見ても女の子向けの店やない?」
「あー、そうみたいだな。」
「どないする?見ないで出るか?」
「いや、入っちまったんだから、一応一通り見てから出ようぜ。もしかしたら、何か掘り
出しものも見つかるかも知れねぇじゃん。」
「まあ、ええけど。」
ピンクな雰囲気の店にこのまま留まるのはちょっと気が引けるなあと思いつつ、岳人が見
たいと言うなら仕方がない。ちょっとした気まずさを感じながらも、忍足は岳人と一緒に
店の中を見て回った。女の子向けとは言えども、なかなかよいデザインのアクセサリーは
たくさんある。
「へぇ、なかなかええ感じのデザインのがそろっとるやん。」
「そうだな。おっ、これとか可愛いー。」
羽根をモチーフにしたアクセサリーを集めることが趣味な岳人は、そんなデザインのもの
を見つけては手に取って楽しげな顔を見せる。しかし、やはりそれは女の子らしいデザイ
ンのものなので、買いたいと思うところまではいかない。
「うーん、確かにいいデザインなんだけど、ちょっとキラキラしすぎなんだよなあ。」
「女の子向けやからなあ。仕方ないやろ。」
「おっ、あそこに超お買い得ってのがあるぜ!ちょっと見に行ってみねぇ?」
「ホンマやな。行ってみるか。」
店の奥の方に「超お買い得」の文字を見つけ、二人は迷わずそこへ向かう。そこにはいく
つかのペアネックレスが並んでいた。本物のシルバーで出来ているようで、なかなか値は
張るのだが、それでも普通のものに比べればいくらか安くはなっている。
「へぇ、ペアネックレスか。」
「今日みたいな日にはピッタリの一品って感じやな。」
「でも、お買い得のわりには結構高くねぇ?」
「素材が素材やもん。こんなもんやろ。」
様々な形のものがあるのだが、一番端にあるものに岳人は目を奪われた。天使の羽を思わ
せるようなデザインに、真ん中に不思議な形をした窪みがある。ペアになっているので、
そのデザインは左右対称になっていた。
「侑士、この一番左側の奴、何かよくねぇ?」
「天使の羽・・・なんかな?」
「たぶんな。うわあ、俺このデザイン超好きかもー。でも、この真ん中の窪み何なんだろ
うな?」
バラバラになっているので、すぐには分からなかったが、しばらくその二つのネックレス
を眺めていて、忍足はその窪みの秘密に気づいた。
「分かった!」
「は?何が?」
「羽の真ん中の窪みや。このネックレス、ペアネックレスやろ?ここの真ん中の窪み、二
つ合わせるとハート型になるんや。」
忍足にそう言われ、岳人は注意しながらもう一度そのネックレスに目を落としてみる。確
かにそれはくっつければ綺麗なハート型だ。二つのネックレスを合わせると、ハートに天
使の羽がついた形になるのだ。
「本当だ。すっげー。うー、何かそれに気づいたら無性に欲しくなってきた。」
「クリスマスだし、悪くないんちゃう?」
「でも、結構高いぜ。俺の小遣いじゃとてもじゃないけど足んねー。」
「これ、ペアネックレスやろ?俺と岳人で半分半分にして出せばええんやない?」
「いいの!?」
「ああ。俺もこんなデザインやったらつけてもええと思うし、岳人とのペアネックレスだ
ったら大歓迎やで。」
「やったー!サンキュー侑士!!」
跳ねるように喜ぶ岳人を見て、忍足はふっと微笑む。岳人ほど欲しいということをあから
さまには出していないが、忍足自身もこのネックレスをひどく気に入って、どうしても欲
しいと思っていたのだ。ハートの天使のペアネックレス。ラブロマンス好きな忍足がこん
なデザインを気に入らないわけがない。
「へへへー、入ってよかったなこの店。」
「せやな。」
お気に入りのネックレスを見つけられ、岳人は大満足。たまには普段入らない店に入って
みるのもよいと忍足も頷いた。店の外に出ると岳人は早速今買ったペアネックレスを出し
てみる。
「素で見てみると思った以上にキラキラしてんな。」
「ホンマもんの銀やからなあ。岳人はどっちつける?まあ、どっちも同じやけど。」
「俺はこっち。侑士はこっちな。」
岳人は左の羽のネックレスを選び、右の羽の方を忍足に渡した。
「何か意味あるん?」
「俺は左利きで、侑士は右利きだろ?だから、俺らって手繋ぐとき、利き手とは逆の手で
繋ぐじゃん。それと同じにしてみたんだ。つまり、俺の右手にあたる部分がハートの左側
で、侑士の左手にあたる部分がハートの右側ってわけ。」
「何か頭が混乱しそうな説明やな。要するに俺らが手繋いだときにのネックレスの向きが
ちゃんと重なり合うような向きになるってことやろ?」
「そうそう!それが言いたかったんだよ。」
「なるほどな。ええやん。ほなら、つけてみよか。」
「おう。」
自分でつけてもよいのだが、せっかくだからということで、二人はお互いにその天使の羽
をつけあった。クリスマスにピッタリのこの飾りは二人の気持ちをより一層ウキウキさせ
る。
「似合うじゃん、侑士。」
「岳人も似合っとるで。」
「やっぱ、こういうのっていいよな!」
「せやな。」
胸の上で小さな羽をキラキラと輝かせながら、二人は再び歩き出した。

「はあー、疲れたあ。」
「結構いろんなとこ見て回ったもんな。」
「ちょっと休もうぜ、侑士。」
商店街を歩き回った二人は、かなりお疲れ気味。このあたりで一休みしようと、噴水の前
にあるベンチに座った。
「ちょっと寒みぃな。何かあったかいもん飲みたくねぇ?」
「あー、飲みたいなあ。でも、それほど喉は渇いてるいうわけやないからな。一本はいら
ないって感じなんやけど・・・」
「だったらさ、一本だけ買って二人で飲もうぜ。そしたら、半額になるし、量もちょうど
いいし、一石二鳥だろ?」
「それ、ええやん。」
「んじゃ、俺買ってくるよ。侑士、何飲みてぇ?」
「別に何でもええよ。あっ、でも、甘いの飲みたいって気分やないからそれ以外で。」
「りょーかい。じゃあ、ちょっと待ってて。すぐ買ってくるから。」
パタパタと自動販売機に向かって走り出す岳人を眺めながら、忍足は冷えた手にハアと息
を吹きかける。吐く息も真っ白で、確かに厳しい寒さではあるのだが、それほど寒いとは
感じてはいなかった。
「今年のクリスマスも楽しくなりそうやな。」
そんな独り言を呟きながら、真っ青な空を見上げる。その澄んだ青空は今の忍足の心の中
を表しているようだった。
「お待たせ、侑士。」
「おかえり。何買ったん?」
「コーンスープ。甘いの嫌だって言ってたし、俺も飲みたかったから。これでよかった?」
「ああ。全然構へんで。」
「侑士、手冷えてんだろ。あったかいうちに先飲んで、ついでに手もあっためとけ。」
「せやな。おおきに。」
まだ開けていない缶を岳人は忍足に手渡す。缶の温かさが冷えた手には心地よかった。軽
く振ってプルタブを開けると、忍足は一口そのコーンスープを口に含んだ。
「ちょっと熱いくらいやな。」
「それくらいがちょうどいいんだって。なあ、俺も飲んでいい?」
「もちろんやで。ホンマに熱いから気をつけてな。」
「おっ、サンキュー。」
忍足から缶を受け取り、岳人も熱々のコーンスープを口に運ぶ。
「うめぇ。意外とうまいんだな。缶のコーンスープって。」
「せやな。なあ、次俺に飲ませて。」
「いいぜ。」
そんなふうに一口ずつ交互に缶を回しながら飲んでいると、最後の方でコーンが底に残っ
てしまった。コーンを残すのはもったいないと必死で落とそうとする岳人だが、これがな
かなか落ちてこない。
「あー、コーンが落ちねぇ!!」
「もう諦めてもええんやない?」
「いや、絶対食う!!」
子供のようにムキになっている岳人を見て、忍足は笑う。コーンを落とすのを手伝ってや
ろうと逆さまにしてある缶の底を軽く叩くと、岳人の口に残っていたコーンがポロポロと
飛び込んだ。
「んっ・・・んんん!(あっ、取れた!)」
「よかったな。」
「んんん、んんんんん(侑士、おすそわけ)」
「はぁ?何やて?」
口にコーンを含んだまましゃべっているため、全く何を言っているのか分からない。何を
言っているんだと首を傾げていると、岳人はいきなり忍足にキスをした。というよりは、
口に入ったコーンの半分を忍足の口に移したのだ。
「んんぅっ!?」
「ぷはぁ、よっしゃー、コーン完食。」
「な、何すんねん岳人!!」
「だから、おすそわけって言ったじゃん。」
「あんなん全然聞き取れへんわ。ったく、心臓止まるかと思たわ。」
口の中のコーンを飲み込みながら忍足は心臓をばくばくと高鳴らせる。そんな忍足を見て
岳人はくすくす笑う。コーンスープを飲み、ドキドキすることもして、二人の体はさっき
より完璧に温まっていた。
「あっ、そうだ侑士。今日の夕飯どうする?」
思いついたように岳人は訪ねる。いきなりだなあと忍足はすぐには反応出来なかった。ち
ょっと間をおいた後、ポツリとこぼす。
「せやなぁ・・・せっかくのクリスマス・イブやし、ちょっと豪華なもん食べたいよな。」
「でもさ、さっきネックレス買っちまった所為で、俺、そんなに金持ってねぇぜ。」
「俺だって大して変わらへん。千円ちょっとでそれなりにええもんが食えるとええんやけ
ど・・・・」
そんな話をしていると、サンタクロースの格好をした自分達よりいくらか年上の女の子が
チラシを渡しに二人のもとへやってきた。
「クリスマス企画ということで、バイキング形式食べ放題が千五百円となっております。
よかったらお越しくださいませ☆」
どうやら近くにある料理店のバイトらしい。渡されたチラシを見て、これは今の自分達に
ピッタリの店だと二人は顔を見合わせて喜ぶ。
「侑士、これならいけんじゃねぇ?」
「千五百円で、食べ放題ってのはかなりお得やな。夕飯、ここでええんやない?」
「同感♪俺達超ラッキーだよな。」
「ああ。でも、まだ夕飯には早い時間やろ。もう少しいろんなもん見て、それから行こう
や。」
「賛成ー!!」
ピョンっとベンチから下りながら、岳人は笑って頷く。夕食処も決まり、あとはそれまで
時間を潰すだけ。日暮れまでの数時間、二人は再び商店街を歩き回り、有意義に二人の時
間を過ごすのであった。

日も落ちて、イルミネーションが輝き始めると岳人と忍足はさっき渡されたチラシの店へ
と向かう。行ってみるとかなり大きな店で、たくさんの客がいるにも関わらず、その全て
の人を受け入れるだけの広さがあった。
「なかなかよさそうな店やん。」
「そうだな。へぇ、中華にイタリアンに洋食、あっ、日本食もあるぜ。すっげぇ、何でも
そろってんだな。」
「これで千五百円は安いやろ。どれもうまそうやし。楽しみやな。」
たんさんの料理を前にして、二人の胸は期待感でいっぱいになる。先払い式だったので、
初めに代金を払ってしまうと、二人は空いている席に座った。そして、それぞれ自分の好
きなものを皿いっぱいに乗せて運んでくる。
「超うまそーvv侑士、早く食べようぜ。」
「せやな。それじゃあ・・・」
『いただきます!』
元気よくそう言うと二人はぱくぱくと料理を食べ始める。安い割には味もなかなかで、そ
んな料理に二人は大満足だった。一通りのものを食べ終えると、岳人も忍足もたくさんの
一口サイズのケーキを皿に盛ってきた。
「やっぱ、クリスマスにはケーキを食わなきゃだよな。」
「ああ。岳人が取ってきたのもうまそうやな。なあ、この一口サイズのケーキそれぞれ半
分にして、全部味見してみぃひん?」
「いいぜ!」
一つのものをたくさん食べるより、たくさんの種類をちょっとずつ食べたいと忍足は岳人
にそんなことを提案する。もちろん岳人は大賛成。自分の皿にあるケーキをフォークで半
分にし、一口目は自分の口に運び、二口目はお互いの口に運んだ。
「ほら、侑士。あーん。」
「あーんて、こないなところでそれはないやろ。」
「いいんだよ!ほら、口開けて。」
「しゃあないなあ。」
岳人の言葉に多少の恥ずかしさを感じるもの素直に忍足は口を開ける。そんな忍足の顔が
岳人にはたまらなかった。自分の気に入った味が口に入ると、忍足は嬉しそうに微笑む。
それがもっと見たいと岳人は赤ん坊に御飯をあげるように、次から次へと忍足の口の中に
ケーキを運んだ。
「はあー、もう腹いっぱいやで岳人。」
「本当?でも、まだ侑士の皿にいくつかケーキ残ってるぜ。」
「もう無理やわ。岳人食べてくれへん?今度は俺が食べさせてやるから。」
「マジで!?じゃあ、食べるー♪」
忍足に食べさせてもらえるということで、岳人は嬉しそうに頷く。そんなに大きいケーキ
ではないので、岳人はあっという間に平らげてしまった。料理もおいしく、デザートも最
高、しかも値段は超低価格。なかなかいいディナータイムが過ごせたと二人はお腹も心も
満たされてその店を後にした。

外に出ると完璧に街はクリスマスの夜という感じになっていた。ツリーはライトアップさ
れ、いたるところにつけられた電飾はピカピカと瞬きを繰り返している。そんな飾りを眺
めながら、二人は商店街を抜けるような形で歩き出す。
「クリスマス、こっからが本番だよな。」
「せやな。これからどないするん?」
「どうしよっか。あっ、侑士お気に入りのラブロマンス映画を借りて見るとかは?その後
でそういうことするのもありじゃん。」
「うーん、それもええけど、どうせだったら・・・・」
「どうせだったら?」
ラブロマンス映画を見る聖夜というのもなかなか素敵だと感じる忍足であったが、それで
はやはり何か物足りないような気がした。
「映画じゃなくて、本物のラブロマンスを俺に味あわせてや。」
そんな忍足の言葉に岳人は唖然とする。しかし、そんなことを言われて何も出来ないのは
男ではない。しばらくどうしようか考えた結果、岳人はこの状況にちょうどよい場所が頭
の中に浮かんだ。
「いいぜ、侑士。俺が最高に感動するようなラブロマンスを味あわせてやるよ。」
「ホンマに?」
「ホント、ホント。絶対忘れられないようなクリスマスにしてやるよ。」
「そりゃ楽しみやな。期待してるで。」
「おう!まかせとけ!!」
自信満々にそう言いながら、岳人は忍足の手を握る。そして、ラブロマンスを味あわせる
にピッタリの場所へ向かって歩き出した。

                     to be continued

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−跡宍−  −滝鳳−  −ジロ樺−

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